教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
翔君が取り出した物、それはロイヤルリッチバニラアイスクリームだった。


しかも5個も。


やたらにカバンが大きいと思ったら、中にクーラーボックスを入れていたのか。


スーツ姿にクーラーボックス。


なんだか滑稽だ。


っていうかロイヤルリッチバニラアイスクリーム、あたしの大好物なんですけど。


そんなあたしを見て、翔君は悪魔のような微笑みを浮かべている。


さっきの「天使のような優しい微笑み」というのは撤回しよう。


「水香ちゃん、この会社を受けるならアイスをあげよう。だが受けないと言うのなら」


「受けないと言うのなら?」


「僕が食べる」


「…」


困り果てて考え込んでしまった。


あたしは無理そうなものはやりたくないタイプ。


エムアールティー証券株式会社を受けるなんて無謀だ。


無謀過ぎる。


だけど目の前にはロイヤルリッチバニラアイスクリームという名の誘惑が…。


悩んでいると、翔君は立ち上がった。


「ちょっとトイレをお借りするよ。その間に考えておいてくれ」


翔君が去ると、部屋にはあたしとロイヤルリッチバニラアイスクリームだけになった。


食べたい。


大好物が目の前にあるんだもの、耐えられるわけがない。


1個だけ…。


あたしはロイヤルリッチバニラアイスクリームに手を伸ばした。
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