教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
近くにあった金色のスプーンも一緒に引き寄せ、食べ始めた。


一口食べた瞬間、至福の時間が訪れた。


「おいしい!」


ほどよい甘さ、バニラの芳醇な風味とコク、クリームのようになめらかな口溶け。


あまりのおいしさにすべて忘れてしまいそうだ。


しばらくすると、足音がしたので慌てて何もなかったかのようにスプーンを戻した。


ロイヤルリッチバニラアイスクリームもフタをして元の場所に置いておく。


ガチャリとドアが開き、翔君が現れる。


「さて、水香ちゃん。どうする?」


「…」


そういえば食べるのに夢中で全然考えてなかったな。


どうしよう。


困っているといきなり翔君が目を光らせた。


「…む、水香ちゃん。食べたな」


ギクッ。


「いや、食べてないよ」


だって食べかけのロイヤルリッチバニラアイスクリームは元の場所に置いたし。


スプーンだってそうだ。


今の状態ならバレないと思うんだけど。


「ならば聞くが、君の口の横に付いている白い物はなんだ?僕がトイレに行く前はなんでもなかったぞ」


「うっ」


なんという致命的なミス。


「すいません。誘惑に負けて食べました」


翔君はやや呆れ気味に苦笑する。


「じゃあ、返事はイエスということだな?そう考えていいんだな?」


「…ハイ」


彼の出す威圧感もあり、もはや逆らえない。


こうしてあたしは大企業、エムアールティー証券株式会社を受けることになってしまった。
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