教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
どうしよう。


いつも優しくて温かい視線を送ってくれるのに、今日は全然こっちを見ようとしてくれない。


「じゃ、15日だから出席番号5番…青葉」


青葉という名字は1番とか2番っていうイメージがある。


だけど逢沢由香、相田美奈子、会田優利枝、青木春奈、青葉水香っていう感じであたしは5番。


先生があたしを呼ぶ時の一瞬の沈黙さえもズキッと心が痛んだ。


いつもはそんな沈黙なんかないのに。


「この単語…pityの意味は?」


「…同情、憐れみ」


「うん。そうだな」


その声もあまり感情が入っていなかった。


悲しすぎる。


「じゃ、15番、小林。
avoidの意味は?」


ほら、あたしじゃない人の時は沈黙なんかない。


言い方も普通の言い方で。


ねぇ、先生。


あたしを見てよ。


そんなことは口に出せないけど。


でも、他の女の子を穏やかな目で見る先生を見ていられない。


あたしは欲張りだ。


あの春の日差しのような優しい視線も、水晶のようにキレイな瞳も、少し高めの声もあたしのものだ。


あたしが先生のすべてを独り占めしてしまいたい。


そう思ったって無駄なのはわかってる。


でも先生、あたしは。


あたしはこんなにも先生が好きなんだよ。
< 27 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop