教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
そんなことを考えているうちに、授業は終わってしまった。


先生が教室を出ていく。


追いかけたい。


追いかけたかった。


だけど足がすくんで動けなかった。


教室を出ていく間際のあの先生の目。


透き通ってはいたけれど、なんだか冷たいような雰囲気を帯びていた。


少なくともいつもの温かさは消えている。


そうだ。


あたしが先生を傷つけたんだ。


さっさと翔君との否定してしまえばよかったのに。


だからあたしのせいなんだ。


先生、ごめんね。


あたしは机に伏せて静かに涙を流した。


その涙は誰に知られることもなく流れた。


「水香、どうしたの?」


ふいに頭上から凛の声がした。


「なんでもないよ」


あたしはそう言うのが精一杯。


先生とのことだなんて言えないよ。


「…そう。何かあったら言ってね」


凛は深く追及するでもなく、それしか言わなかった。


その心遣いは非常にありがたい。


今は誰とも話したくない。


いや、それでは語弊がある。


先生としか話したくない。


ただ早く彼に真実を話したい。


でも怖い。


先生と話すのが。


あんな冷たい先生の目、初めて見た。


ああ、誰かあたし達を昨日に戻して。


何の悩みもない昨日に…。
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