教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
その日はいつまでも、帰りのホームルームの時間で再び先生があたしの前に現れても、彼を直視出来なかった。


今、石野先生の横の教壇に立って連絡事項を伝えている森田先生の瞳はいつもと変わらない。


でも、やはり冷たい目の残像が頭にこびりついている。


だからずっと机を見ているんだ。


机の隅にこっそりシャーペンで描いた先生の絵。


なんだかバカらしくて手で消してしまう。


こんな状況に置かれると、幸せな日々が偽りに思えてくる。


そしてバカバカしく思う。


きっと幸せな日々に対してのひがみなのだろう。


結局、そんな自分が一番嫌だ。


そんなことばかりが頭の中で渦巻いて、交錯する。


だから陸曰く掃除の時も心ここにあらずという感じで、感情のないロボットのようだったそうだ。


無理もない。


あたしの頭を占領し、支配しているのは先生のこと。


なんだかんだ言ってもやっぱり好きなんだ。


たとえ先生に嫌われても、あたしは嫌いになれないし、ならない。


先生はまるで麻薬のようだ。


あたしを溺れさせて、そして心を強くつかんで離さない。


失いそうになった時は、狂いそうな気持ちに襲われる。


先生にとってのあたしもそういう存在でありたかった。


今となっては叶わぬ願いだけど。
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