教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
その後、教室に入るとすでに森田先生はいた。


「青葉、遅いよ」


「すみません」


「…早く席について」


「はい」


自分の席に向かうために先生に背を向けると、鋭くて冷たい視線が背中に突き刺さった。


その視線の主が森田先生なのはわかっている。


あたしはどうすればいいんだろう。


確かにあたしは先生が好きだけど、いとこである翔君を傷つけたくない。


それだけで頭がいっぱいだ。


連絡事項を告げる先生の声も聞こえない。


机の模様しか目に入らない。


ふいに強い眠気があたしを襲う。


ああ、そうか。


先生と気まずい仲になって以来、よく眠れないんだっけ。


たちまち夢の中に連れていかれそうになるけど、なんとかこらえる。


居眠りなんてしてはいけないんだから。


居眠りは…いけない…。









「…か」


「…」


「水香!」


「え?!」


誰かの声がしたので勢いよく飛び起きた。


いつのまにか、うとうとしてしまったらしい。


だけどやはり眠く、頭は重い。


やっぱりもっと寝ていたいなぁ。


「水香、1時間目は芸術だよね?」


陸が聞く。


「あ、うん」


「じゃ、美術室行こうよ」


凛の声で、あたしは重い体を引きずるように美術室に向かった。
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