教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
ふらふらと教室を出ると、遠くに先生が見えた。


「あぁー、やっぱり森田先生、後ろ姿もス・テ・キ!」


「だよね~。私、あんな美しい後ろ姿をお持ちの男性、初めて見たわ」


凛と陸が甲高い声で騒いでいる。


あたしは何も言わなかった。


「ねぇ、水香。水香もそう思わない?」


紅潮した顔で陸が聞いてくる。


「いや、別にあたしは」


「ええー、あんなカッコいいのに?」


凛は驚いている。


そりゃ先生がカッコいいだなんて、言われなくたってわかっている。


だけど、あたし達は不倫の関係。


他の女の子と一緒に表立って「カッコいい」とか「好きだ」とは言えない。


もちろん、出来ることなら言いたい。


あの後ろ姿に「大好き!」と叫びたい。


あの背中を後ろから抱きしめたい。


もう一度笑い合いたい。


「…っ…」


急に意識が遠のいた。


やはり人間は、睡魔にはどうしても勝てないらしい。


あたしの体がゆっくりと床に倒れていく。


「水香?」


「水香!」


陸と凛の声や、あたしの筆箱と教科書と絵の具の落ちる音も遠くなっていく。


そしてあたしに近づいてくる足音も…。


「おい、青葉!?」


あれ?


先生、どうして…?
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