教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
遠くから生徒達のざわめきが聞こえる。


少女特有の甲高い笑い声。


目を開けると、あたしはベッドで寝ていた。


どうやら誰かによって保健室まで運ばれたらしい。


ベッドはカーテンでぐるりと囲まれているので、カーテンを開けようと手を伸ばした時だった。


いきなりシャッという音とともにそのカーテンが開く。


そこには最も会いたい人がいた。


「おっ、気づいたか?青葉」


「森田先生…」


「職員室に向かっていたら後ろで物音がしたからさ、振り向いたらお前が倒れていたんだ。だからここまで運んできた」


「どうして?あたしのこと、怒っているんじゃないんですか?」


本当は嬉しいのに、こんなことを聞いてしまった。


「俺はつまらない意地でお前を悲しませてしまった。だから…」


「?」


「謝らなきゃいけないな。ごめん」


「それじゃ…」


「怒ってないよ。全部神沢の奴から聞いた。あーあ、本当に俺って子供だよな。いつもお前を泣かせてばかりだ」


そう言って照れくさそうに頭をかく先生を、あたしは思わず抱きしめた。


「青葉!?」


どうしてかはわからない。


だけど先生のすべてを受け止めたい。


そう思った。


次の瞬間、あたしは先生の腕の中にいた。


「女をここまで愛しいと思ったの…初めてだ」


その顔は嵐が過ぎ去った海のように穏やかだった。


「先生」


この時、あたしはすべてを先生に任せた。







あたしは幸せだ。


誰も知らない先生の顔を今、独占している。


いや、顔だけじゃない。


今は全部を独占している。


先生があたしを見つめてくれて、あたしの名前を呼んでくれている。


あたしは先生に慈しみ愛されていることで、優越感に浸っていた。
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