教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
第六楽章 2人だけの夜
-翌朝-


「おはよう、陸」


「水香!?」


「ん?何?」


「なんか…妙に変わっているわよ」


「何が?」


「雰囲気…かな」


「変わってないよ」


「えー?なんか違うんだけどなぁ」


そして陸はあたしの頭のてっぺんからつま先をじろじろ見る。


何か言わないとずっと観察されるような気がしたので、一言だけ言った。


「違いません」


「丁寧語で否定するところがまた怪しい」


陸はそう言いながらなぜか手をひらひらさせる。


何がやりたいんだ、この人は。


「怪しくないよ」


「ふーん?」


「何よ、その人を探るような目は」


「別に~?」


そう言いながらまたあたしの頭から足の先を見る陸。


いい加減にしてほしい。


あたしはため息まじりに言った。


「まったくもう」


「…まあ、いいか」


「やれやれ」


この人は変なところだけ鋭いんだから。


まさか昨日、保健室で先生と…なんて言えるはずがない。


これからは浮かれる気持ちを抑えて過ごさなきゃいけないのか。


本当なら大声で叫んで自慢したい気もするのだけど。


さすがにそれはいけない。


だけど何をしていても浮かれてしまう。


自然に鼻歌が出るような、踊り出したくなるような感じ。


まるで春の訪れを喜ぶ動物や草花のように。


あたしはベランダに出た。


5月下旬の青空と、適度でさわやかな風が気持ちいい。


少しだけ落ち着く。


しばらくすると、遠くに見える西校舎の窓の向こうに愛する先生が見えた。


あたしに気づいた先生は、さわやかな風にも劣らぬ素敵な笑みを振り舞いてくれる。


テンションが急上昇したあたしは人生初の投げキッスをする。


その後、あまりの恥ずかしさに後悔したのだった。
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