教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
-授業中-


「Part of Germany was incorporated into Poland after World War」


第1次大戦後、ドイツの一部はポーランドに編入された、という内容の英文を滑るように読む森田先生。


まわりの女の子はうっとりしている。


驚いたことに、ケータイで録音している女の子までいた。


アラームにでもする気なのだろうか。


かく言うあたしも、朝、先生の声で目を覚ましたいという願望がなくもないのだけれど。


そんなことを考えながら、ただ先生を見ていた。


チョークに触れるその指は長くてキレイ。


彼の口から発せられる声はあたしを酔わせる。


そして澄んだ瞳はまっすぐにあたしを見ていた。


彼の口元がほころぶ。


やわらかな風が吹く。


時間が止まったような感覚になった。


しばらく見つめ合った後、先生は笑顔をしまい、またさっきのとは別の英文を読み始める。


あたしは先生をじっと見ていた。


たったそれだけでささやかな幸せに浸ることが出来た。


みんな先生を見ているけれど、あたしは彼を独占しているんだ。


そして気分が上がり過ぎたこの日の放課後。


あたしは2人きりになった教育実習生の控え室で、先生にとんでもないことを言ってしまうのだった。
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