教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
-放課後-


あたしは教育実習生の控え室にいた。


控え室には森田先生とあたししかいない。


カーテンの向こうからはやはり課外をやっているようで、円の方程式だとか、軌跡と領域だとか、数学に関する話が聞こえる。


数学は英語以上に嫌いなのであまり聞かないことにした。


「あの、先生」


「ん?」


「ちょっとわがまま言っていいですか?」


「何?」


「あの、あたし、先生の家に行きたいでございまする」


「おい、ちょっと待て。お前何考えているんだ?」


「そりゃ、先生の家に行きたいって考えているんですよ。だから今言ったんじゃないですか」


「お前なぁ…。まったく。いいか?良く聞けよ」


「?」


「妻になんて言い訳するんだ」


「あっ、忘れてた」


「まぁ、あいつは一昨日から来週の火曜日まで出張なんだけどな」


先生の独り言をあたしは聞き逃さなかった。


「じゃ、いいじゃないですか」


「しまった。つい…」


「決まり、ですよね?」


悪魔の微笑み付きであたしは聞く。


「はいはい、わかりましたよ。お姫様」


「それは皮肉を込めて言ってるんですか?」


「まぁ、多少」


「先生、ひどい…」


「さあて、そんなことより行くぞ」


ごまかすように、先生はあたしの手を引いて立ち上がった。
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