教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
別にそんなことを期待したわけじゃない。


だけどその煽情的な表情に魅了されて、思わずこう言ってしまった。


「はい」


先生はふっと笑って耳元で囁く。


「いやらしい奴」


「なっ、別にそう言わなくてもいいじゃないですか」


「ははは」


「っていうかあたしは大丈夫ですけど、先生はさっさと晩ごはんでも食べたらどうですか」


「うーん、お前が食いたいなぁ」


「ば…バカッ」


あまりにも恥ずかしくて、あたしは先生の腕を思いきり叩いてしまった。


先生は相当痛かったのか一瞬表情をゆがめてから、また元の顔に戻って言った。


「おっ、教師をバカ呼ばわりした上に叩くとはずいぶん度胸があるんだな」


「すいません。いや、あの…」


「石井やお前には嘘をつく形になっちゃうけど、お仕置きとして昨日と同じことしてやろうか。フッフッフッ…」


わ、わ、わー!


先生の笑みが黒ーい!


しかも何!?


RPGのラストステージに現れるボスみたいなその笑い方は。


「い、いりませんよ。そんなもの」


と、いいつつ実は嬉しかったりして。


もちろん、あたしはMじゃないけど。


「顔が笑っているぞ」


ありゃりゃ、あっさりバレてしまった。


まさか顔に出ていたとは。


あたしは負けを認めた。


とたんに先生はくすくす笑い出す。
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