教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
第八楽章 苦しい気持ち
先生があの取り巻きとキスをしたって?


「凛。冗談…だよね?」


「冗談じゃないよ。確かにあいつ、言ってたし、聞き違いでもなさそうだしね」


そのセリフでわずかな希望もガラスのように無惨に砕け散った。


まさか…。


先週、先生に謝ろうと放課後に教育実習生の控え室に行った時-。



「ねぇ、先生?いい加減教えて下さらないかしら。なぜ怒っていらっしゃるんですの?」


「お前こそいい加減にしろよ」


「そんなのいいから教えて下さらないかしら」


「お前には関係ない」


「関係あるわ。私…初めて見た時からあなたが好きでしたの。だから…」


「ちょっ…お前…やめろ…。…んっ…」




あの時、先生は取り巻きの女の子とキスしていたんだ。


あまりのショックに口を開くことが出来なかった。


先生の力なら彼女を振り払うことだって出来たはずなのに。


それなのに先生は「やめろ」と言いながら受け入れていた。


そしてあたしにも何も言ってくれなかった。


先生と気持ちが通じ合えたこと。


先生があたしを好きだと言ってくれたこと。


秘密の時間を過ごせたこと。


それらのまぶしいくらいの甘美な喜びは消えていて、ただ痛みのように切なく、悲しくて暗い闇が心に残っているだけだった。
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