教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「青葉?」


「!」


この声は…。


あたしはベッドを囲んでいるカーテンを開けて、ベッドから下りた。


「石野先生」


「大丈夫?4時間目いなくて野村に聞いたら保健室に行ったって言ってたから」


ああ、陸に聞いたのか。


「今はもう大丈夫ですから」


「なら良かった。午後の授業、大丈夫?出れる?」


「出てみます」


「わかりました。無理はしないでな」


「はい」


石野先生は出ていった。


あたしはため息をつく。


さっき、石野先生が入ってきてほっとしたあたしがいた。


でも、ちょっとがっかりしたのも事実。


なんでがっかりしたかって、そんなのわかっている。


心のどこかで無意識に求めていたんだ。


森田先生を。


あの端正な顔立ちを思い出す。


笑った顔も、悲しげな顔も、嫉妬した顔も、真剣な顔も、ふざけている時のちょっとおどけた感じの顔も…。


そしてあたししか知らない先生の顔も全部思い出す。


なぜだろう。


あたしを好きだと言っておいて他の女の子とキスしていたのに。


嫌いになったはずなのに。


どうしてこんなに苦しいのかな。


どうして会いたくなっているのかな。
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