教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
-放課後-


あたしはいつかと同じように、今日も教育実習生の控え室に行く。


やっぱりいるのは森田先生だけ。


「先生っ」


「おぉ、青葉か」


「先生、今日、デートして下さい」


「なんだ、いきなり」


いきなりって…。


あたしが呪文をかけられたかのように固まると、その呪文を解くように先生は笑い出した。


「お前をからかうと面白いな」


「からかうと面白いとかさすがSですね。ゲーマーのくせに」


「ゲーマーとSは関係ねぇだろ。そうだ、お前とのデートが終わって家に帰ったら…うん。モンスターハンター、略してモンハンでもやろうかな」


このセリフの「お前とのデートが終わって」という部分を聞いてあたしは嬉しくなった。


「デートしてくれるんですか!?」


「ああ」


先生はキラリきらめくダイヤモンドよりも、まぶしい笑みでうなずいた。


「やった!」


あたしは先生の腕に抱きつく。


「う、ううう腕が痛いぃ…」


先生は涙目になっている。


ふいにあたしの鼻を優しい香りがくすぐる。


香水だ。


確かブルガリのブルー。


なんで知っているかって?


だってあたし、雑貨屋でバイトしてたから。


まあ、「してた」って過去形だけれども。


休み時間によく匂いのサンプルを試していたので覚えている。


あの時、何気なく嗅いでいたブルガリも先生が使っていると思うとブルガリが特別に思えてくる。


「行くぞ」


先生はクールかつさわやかに言った。
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