教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
村井涼太先生。


あたしが通っていた塾に勤めていた人。


そして、ずっと片想いしていた人。


「久しぶりだな」


彼は1年前と変わらない涼しい笑みを浮かべる。


「お久しぶりですね」


その後に何か言いたいのだけど、いい言葉が思いつかない。


しかし、村井先生が先に言葉を発してくれた。


「学校帰り?」


「ええ、まぁ…」


あたしはそう言いながら、ゲーム売り場にいるスーツ姿の男性に目をやった。


スーツ姿の男性とはもちろん森田先生だ。


実は今いる雑貨屋からゲーム売り場はわりと近い。


村井先生は森田先生を見て言った。


「ふーん、デートってやつか」


あたしの顔は赤く染まる。


「先生はデートじゃないんですか?」


「デートだよ。さっきまで彼女といたしね」


そうだよね。


先生だって年頃の人間なんだから。


心の中でうなずく。


「でも…」


村井先生はあたしを見る。


見つめられて顔の赤みが増した気がする。


「いや、お前も積極的になったと思って。塾にいた頃おとなしかっただろ?」


確かにそうだけど。


「俺もお前も…変わったな」


切なげな声。


どうしてそんな声になるの?



ねぇ、村井先生。


前は指一本触れようとしなかったあなたは今、どうしてあたしの頭を撫でてくれるの?
< 76 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop