教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
そして3月。


高校入試が迫る最後の村井先生の授業の日だった。


休み時間になってあたしはいつも通り外で遊んでいた。


でも最後まで迷惑をかけるのも申し訳ない気がして、先生が呼びにこないうちに個別授業の教室に戻った。


しかし、授業の時間を過ぎても先生は来ない。


先生は時間にルーズな人じゃない。


時計の秒針が動いていくのに比例して、不安が積み重なる。


先生達がいる部屋を覗いても村井先生はいない。


まさか授業、すっぽかされたのかな。


そんなことを考えた。


塾の外に出てみる。


さっきは裏口から入ったので表の出入口から出た。


先生のバイクはちゃんとある。


でもどの教室をさがしてもいない。


いっそバックレてしまおうか。


村井先生じゃない先生の授業は、今は受けたくない。


終わりの時間になったら、机の上に置きっぱなしのテキストとノートを取りに教室に戻ればいい。


どうせあの部屋には誰も来ないし、仮に来たとしても人のことをいちいち気にする人はいないから、バレないだろう。


そう思い、裏口のドアを静かに開ける。


「!」


そこであたしは見てしまったんだ。


その光景は高校生になっても、あたしの胸を締め付けるものだった。
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