教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
そこにいたのは先生と知らない女の人だった。


やたらに楽しそうに話している。


あんな顔、あたしには見せてくれないのに。


女の人が言う。


「でさぁ、大学から帰ろうとちょうどここの前を通ったら、涼太がいるんだもん。びっくりしちゃった」


「ああ、あれは生徒をさがしてたんだけど」


「ふーん。でもアタシ、その生徒さんに感謝しちゃう。涼太に会わせてくれたんだしね」


「そうだな」


「やっぱ会わないと物足りないっていうか、寂しいもの」


「亜鶴弥(あずみ)…」


先生は愛おしそうに女の人…亜鶴弥さんを見た。


「涼太、なんかここで働き始めてから変わったね」


「どこが?」


「なんかよく笑うようになった気がする。っていうか微笑みが優しくなった。去年の4月くらいから」


(去年の4月…)


先生があたしを受け持ったのも去年の4月だったっけ。


「自分ではよくわからないや」


先生は首をかしげる。


「ところで生徒さん、さがさなくていいの?」


「あいつは真面目だから、そろそろ教室に戻っているんじゃないかな」


ねぇ先生、あたしちっとも真面目なんかじゃないよ。


先生の気を引きたいから休み時間には出歩くんだし、香水も使うようになったんだから。


亜鶴弥さんが言った。


「そう。ねぇ涼太…キスして?」


えっ…!
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