教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
校舎を出て遠くの駐車場の方を見ると、しっかり黒のベンツが停めてあった。


何が「歩いてきた」だ、まったく。


雨はさっきよりひどくなって、視界に影響を及ぼすほどになっていた。


「それにしてもすごい雨だな。お前、傘持ってるか?」


「いいえ。朝は晴れていたし」


「俺もだ。さて、車まで走るか?」


「びしょ濡れになりますよ」


「じゃあ、これじゃダメか?」


そう言うなり先生は、着ていたスーツをあたしの頭にかぶせた。


「先生」


あたしの顔がたちまち熱を帯びる。


「不満はないようだな」


先生は軽く笑って走り出した。


あたしも慌てて後を追う。


足を前に出すたびに先生のスーツからあのブルガリの香りが優しく漂って、あたしの心臓の動きを速めた。


そんなことを隠すように、そそくさと車の中でスーツをお礼の言葉と共に返す。


するとダイヤモンドより光を帯びた、まるで夜空の星のような先生の瞳があたしを映す。


そんな瞳で見つめられてあたしはどうすればいいかわからなくなり、とりあえずニコッと笑ってみた。


すると先生の、大人の男性を思わせる手で頭を撫でられた。


なんとなく先生のペットになった気分になる。


でも、本当になってもいいかも。


だってそしたらきっとあたし達、こんな不純な関係にならない。


先生、そしたらあなたはあたしだけを見てくれるでしょう?
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