教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「青葉、眠いのか?」


夢見心地になっている時、先生のまぬけな質問が容赦なくあたしの甘い世界を切り裂いた。


「なんでですか?」


「だって目がとろけているから」


「…」


だから夢見心地なんだってば。


まったく、女の子の気持ちがわからない人だ。


やれやれ。


「さて、行くか」


先生は車を走らせ始めた。


あれ?


ちょっと待てよ。


「先生、そういえばあたしの家って教えてましたっけ?」


「…あ」


「…あ」じゃなーい!


あたしがこのまま何も言わなかったら、どうするつもりだったんだろう。


「じゃ、先生。スーパーのレンヤって知ってますか?」


「ああ」


「そこまでお願いします」


「わかった」


まったくどこまで手間がかかるんだ、この人は。


でも送ってもらうんだから文句は言えないな。


沈黙があたし達を包む。


ただ、CDデッキからはいつものように音楽が流れていた。


ピアノのやわらかい音が聞こえる。


個人的な気持ちだけど、なんだか幻想的な気がした。


雨の降るどこか寂しげな景色に、やわらかく悲しい旋律を奏でるピアノ。


それは感傷すら覚えた。


ふと横を見ると、先生もどこか切なげな表情をしていた。


今のあたし達、同じ気持ちなのかな…。
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