教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「ここでいいか?」


結局、何も話さないままレンヤの前に来てしまった。


「はい。ありがとうございました。それでは」


「青葉!」


感傷から抜け出せないまま車を降りようとした時、先生が呼び止めた。


「はい。何…」


振り向いた瞬間、唇が重なる。


卑怯だよ、不意打ちなんて。


でもずっとこのままでいい。


離れたくない。


だからあたしは言った。


「先生、明日付き合って下さい」


「えっ」


あたしは先生の驚く顔もお構い無しに続けた。


「あたし、先生と少しでも一緒にいたいんです」


先生は微笑した。


「わかった」


「ありがとうございます。待ち合わせは9時に駅前でお願いします」


それだけ言い残してあたしは照れを隠すように走り出した。


まだ心臓が鼓動を打っている。


打っているというより踊っている感じに近い。


明日はまた先生に会えるんだ。


明日は土曜日だからみんなは先生に会えないけど、あたしは…。


そう思うと優越感に支配される。


「ああ、あたしは先生の特別なんだ」って。


帰り道は雨の中、スキップで帰ったので水溜まりを蹴散らして余計にびしょ濡れになってしまったけど、どうでもよかった。


早く明日にならないかな。


美しいはずの明日を望むあたしだけがいた。
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