コンプレックス*ラヴァー


「えーっ?いいよぉ。1人で帰れるから……」



慎也に応えた女の子。

それは、聞き慣れた声。

間違えるはずがない、声。



「そういうわけにはいかないだろ。俺が怒られる。」


「大丈夫。走ってくし」


「その短くてトロい足で?」


「ひっどーいっ。なんでいっつも、そういうことばっかり言うの?」



咄嗟に、近くにあった植え込みに隠れてしまった俺。


2人の様子は見えない。

いや…見たくない。


それでも、容易に想像できてしまう。


楽しそうに笑う、くるみの姿……を。



「ほら、送ってやるっつってんだから、早くしろよ。」


「いたっ。引っ張らないでよぉ…」



……何?これ。

なんで?こんな……


くるみはもちろんだけど、慎也も…何?


慎也が、女の子と話すこと自体珍しい。

なのに、こんな……

こんなに慎也、初めてだ。


“特別だ”って、聞かなくたってわかるよ……



「待ってよ、慎也くん!」

< 60 / 87 >

この作品をシェア

pagetop