ダイブ
「……の……?」
遠くから、囁くような声が聞こえた。
「……いのですか?」
微かに聞こえるその声は、不思議と『私に対して』問い掛けてているものだとわかった。
知らない声。
声の主を見ようにも、まぶたが重い。
うっすらと開けたまぶたから、ほんの僅かに光がさしこみ、
眩しさに再び目を閉じた、その時。
はっきりと、耳元に、聞こえた。
「……それでいいのですか?」
その声があまりにも近くて。
脳が直接振られたような痺れた感覚に、
私は飛び起きた。
「……っ!」
目に映り込んだ人物に、声を失う。
見たことのない男だった。
一度でも見ていたら、絶対に忘れないだろう。
滑らかな青白い肌。
鼻梁の通った鼻と、形の良い真っ赤な唇。
櫛けずればそれなりに整いそうな、艶のある黒髪。
黒いスーツに黒いネクタイ。
眩しいくらいに真っ白な白衣を羽織っている。
そして私を見つめる、切れ長の黒い瞳は、問い掛けていたのが彼であることを示していた。
「だ、誰……?」
そこまで口にして、ハッと思い出す。
あれ。私、飛び降りたんじゃなかったっけ?