ダイブ


でも、どこも痛くない。


もしかして此処って、死後の世界……?


彼は……死神?


そこまで考えて、ストンと納得する。


ああ、なんか、わかる。


死神って彼に名乗られたら、信じるわ……


悪魔とか吸血鬼でも信じると思う。


とてもきれいな顔立ちをしていて、なんていうか、現実離れをしているから。


「それでいいのですか?」


私がぼうっと見詰めているあいだに、彼の唇が、さっきの問い掛けと同じ言葉を、再び繰り返した。


何が、と聞き返そうとして、思い至る。


ああ。
わたしが飛び降りたこと。


後悔してないのか、ということだろうか。


「戻りたい過去が、あるでしょう?」


訳知り顔で、でも興味のなさそうな抑揚で、彼は言う。


「別に」


ない、とは言い切れなかった。


戻りたい過去のひとつやふたつ、誰にだってある筈。


だけど私は、いつに戻ればいいのか、いつに戻ればやり直せるのか、

それすらわからなくて。


「別に、いい」


戻らなくても。


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