ダイブ


あそこから飛び降りて、それで。


そこから記憶がない。


いま私の体勢が、建物の前に座り込むようなかたちになっているのを考えると、あそこから飛び降りたのは間違いないと思う。


だけど足元に私のからだがあるわけでもなく。


生も死も、ひどく曖昧だ。


「あなたは普段から『生きてる』と言われないと生を実感出来ないのですか?」


「いえ……」


そんなこと一々確認をとったりはしない。


けれど。


私の顔をチラリと見て、彼は大仰にため息をついた。


「生きていますよ」


「生きて、る」


彼の唇から放たれたのは、思ってもみない言葉だった。


こうしてへたり込んでいる足元は、ひやりと冷たいアスファルト。


普通に考えたら、生きている筈がない。


「もしかして、あなたが……?」


「そうなりますね」


答えるのも面倒くさそうに頷く。


死神じゃなかったのか。


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