『短編』甲子園より、愛をこめて
放課後、図書室で受験勉強をするのがわたしの日課だった。
時折聞こえてくるバットの快音。
問題集を解く手を止めて、マウンドに立つ彼をふと思い浮かべた。
わたしが下校する時、彼はいつもまだグラウンドにいた。
朝練だってやっていた。
だから、彼はいつも授業中、わたしの後ろの席で眠ってばかりいた。
たまに、シャーペンで腕をつつかれることがあった。
こういう時はいつも、先生に当てられそうな時で、
「この問題の答え、教えてくれない?」
と、少し切羽詰まった様子で、お願いされた。
ユニフォームを着てマウンドに立つ彼は、いつも堂々としているのに。
眉を下げてお願いする彼の姿に、思わずくすりと笑ってしまいそうになった。
だけど。
そんな彼が、すごく好きなんだけど。