全部、私からだった。
けれどそれよりも、全く別のことがどうしようもなく気になった。
「ねぇ、りっくん。今、私のこと、何て呼んだ?」
りっくんの顔を覗き込むようにして見上げた。
「え? 『平澤さん』って」
隣の私に視線を落として、りっくんは不思議そうな顔で答える。
ムッとしたまま黙って見上げていると、
「何?」
と聞く。
「私のことも名前で呼んでよ」
ふて腐れながら言ってやる。
『平澤さん』なんて、よそよそしくて嫌だ。
りっくんは私から視線を逸らし、また「うーん」と唸って頭をポリポリ掻いた。
「もしかして、私の名前がわからないの?」
不安になって尋ねれば、りっくんは瞳だけ私に向けた。
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、呼んで」
ほんの少しの沈黙の後、
「多恵……ちゃん?」
りっくんは酷く躊躇いがちに、私の名前を口にした。。