全部、私からだった。



けれどそれよりも、全く別のことがどうしようもなく気になった。



「ねぇ、りっくん。今、私のこと、何て呼んだ?」

りっくんの顔を覗き込むようにして見上げた。


「え? 『平澤さん』って」

隣の私に視線を落として、りっくんは不思議そうな顔で答える。



ムッとしたまま黙って見上げていると、

「何?」

と聞く。



「私のことも名前で呼んでよ」

ふて腐れながら言ってやる。



『平澤さん』なんて、よそよそしくて嫌だ。



りっくんは私から視線を逸らし、また「うーん」と唸って頭をポリポリ掻いた。



「もしかして、私の名前がわからないの?」


不安になって尋ねれば、りっくんは瞳だけ私に向けた。


「いや、そういうわけじゃ……」


「じゃあ、呼んで」



ほんの少しの沈黙の後、

「多恵……ちゃん?」

りっくんは酷く躊躇いがちに、私の名前を口にした。。


< 26 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop