全部、私からだった。
「『いるわけない』って……。

多恵、まだ相変わらず皆人(ミナト)くんのこと?」


言われて私は、じっとりと奈緒を上目使いで睨みつける。



皆人くんとは、私の初恋の人、初体験の相手、そして、
 

高校を卒業して3年経った今も、忘れられないでいる。



「いけない? 今の職場、出会いなんかないし、仕方ないじゃん」


そう、私はピアノ教室の講師をやっている。女ばかりの職場だし、生徒はほとんどが子ども。



「じゃあさ、来週末、自衛隊の人たちと合コンやるんだけどさ、多恵も来ない? 丁度一人行けなくなっちゃって」



ああ、今日飲み誘ったのは、これが目的だったのね、と確信した。


奈緒は策士だ、相変わらず。


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