全部、私からだった。
「多恵、お前、なんつぅことを……」


それでもりっくんは怒らない。困ったように笑うだけ。



りっくんは絶対怒らないんだ。だから、私はどんどん嫌なヤツになってしまう。

そんな自分がすごく嫌いなのに、どうにもできない。



どうしよう……。

りっくんにも嫌われてしまったら。



それでも。

心とは裏腹に、りっくんへの八つ当たりは止まらない。



「だってそうでしょ? 密室に愛する男女が二人きり。この状況で手を出さない男なんか、ポンコツだよ」



ああ……。

なんて酷いことを。


もう振り返ることができない。りっくんの顔を見るのが怖い。


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