とある勇者の家系事情
当時はかなりイラッときましたが、良い思い出なんです。
判ってますよ? 疑うのも仕事の一つで、どんな可能性をも見逃さないってのは立派です。

そんなこんなと色々ありまして、世間から忘れ去られようとしている6月某日。
居間で宿題と戦っていたわたしの耳に物音が聞こえてきたのです。
わたし以外はいない家の中。風の音だろうと簡単に片付けようとしたのですが、どうしても気になってしまい廊下に出たところ松葉ちゃんの姿を見つけました。
衣服の乱れもなく失踪当時の服を身につけ、まだ温かい肉じゃがを手に、松葉ちゃんはどこかぼんやりとした顔をして玄関に立ち尽くしていました。


そして現在7日某日。明日から夏休みです。
その所為か教室内は楽しそうな雰囲気に包まれています。来年に向けて勉強が多い夏休みだとは思うのですが、やはり嬉しいものは嬉しいのですね。宿題が多いのはいただけませんが。
宿題の存在を思い出し、一人もんもんと考えていると
「松葉」
とどこか遠慮がちな声が聞こえてきました。
良かった。松葉ちゃんが完全に孤立していると思っていたからここは素直に喜びますよ。
ちゃんと話しかけてくれる素敵レディ達がいたなんてっ。
わたしの心配は杞憂に終わりそうです。
「この後、なんだけどさ……よかったらお茶しに、いかない?」
どこか緊張しているようなお誘いですが、お誘いですよ!
これで松葉ちゃんも素敵夏休みライフをおくれます!
「ごめんね。私これから補習があるって、そのあとは病院にいかないといけなくて」
松葉ちゃんの受け答えを聞いてハッとする。
そうでした、今日は病院に行く日でした。こんな日にまで補習があるとは思わなくてお迎えに参上したのですが、どちらにしろ一緒には帰れない日でした。しょぼん。
「あ、あーそうだよね!そうだったね」
「き、おくとか、まだ回復してないんだったよね」
まずいと思ったのか、素敵レディ達はあたふたとわざとらしく互いに言葉を交わしてます。
そしてそのまま軽く謝罪して、逃げる様に教室の外へと出ていきました。
そうなのです。松葉ちゃんは失踪中の記憶を失っています。
だからなのか皆さんは過剰に松葉ちゃんを避けています。どう接したらいいのかが判らないのでしょう。

この後の予定も立て込んでいるようなので、わたしも一人で帰ることにしましょう。
帰る前にこっそりのぞいた教室の中で、松葉ちゃんは帰って来てからの癖なんですが、どこか遠くをみるような目を
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