お前に全て、奪われた。 Ⅰ
ヒョウは、目の前の光景に驚きが隠せなかった。
あのセイが降り注ぐ雨にも構わず、女を抱き抱えその上、その寝顔を愛しそうに見つめている。
と、セイが命令を下す。
「ヒョウ、この餓鬼Orionまで運んでおけ、直ぐに咲也に診せるんだ。」
「あぁ…了解。」
血塗れの男の子を抱え、俺は急いでOrionまで走った。
一方、瓜二つの顔をした赤の髪をした双子はその光景に嫌悪感を募らせていた。
そして、女をそのまま抱き抱え連れて行こうとするのを何とか引きとめようとした。
「セイさん、その女あの噂の奴ですよ…?」
「…だからどうした。」
「関わらない方が絶対良いですって、きっと何か裏がある。」
「…あ?」
やっと、女から目を離したと思えばセイさんはギロリと俺等を睨みつける。
物凄い殺気に、体が震え出す。
「…まだ言いてぇことあんのか?」
「い…え…すいません。」
「すいません。」
俺達は直ぐに腰を曲げて謝った。
そして、直ぐに後悔した。
何故、この男に逆らってしまったのか。
…と。
「…行くぞ。」
「「はい。」」
俺等はただ、壊れものを扱うように女を運ぶセイさんに黙って付いて行くしかなかった。