tearless【連載中】
でも、私の瞳に映り込んだのはフワッとした笑み。

しゃがみ込んで私の視界に入り込んだ先輩は、頭にポンと手を乗せると“大丈夫?”そう言ったんだ…。



大きくて、温かい。

璃琥みたいな力強さは無くて、すごく、すごく、優しかった。



『帰ろ?送るから…』



ゆっくり手が離れると、立ち上がった先輩はただ微笑む。



「あの…」

『いーから』



私の腕を掴み、強制的にイスから立ち上がらせるとすぐ手は離された。



『璃琥に殺されるかも』



ふざけながらそんな事を言う先輩に自然と漏れた笑み。



『行こ?』

「はい…」



夕日が照らし始めた教室を出ると、廊下には2人分の足音だけがやけに大きく響く。

ちょっとの距離なのに、時々振り返りながら足を進める先輩は本当に優しいと思う。

無言のまま駐輪場に向かうと、ポツンと1台だけ置かれたシルバーの自転車。



『鞄貸して?』

「大丈夫ですよ…」



そう言ったけど、結局カゴに収まった2つの鞄からは、やっぱり紐がだらんと垂れていて…。

微笑みながら、璃琥に送ってもらった日を思い出していた。


< 164 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop