tearless【連載中】
それから時間にして数秒。

璃琥に名前を呼ばれ“ハッ”と目を開けると、視界に映り込んだのは逆さになった雅貴先輩の顔。

覗き込んでいた為か異様に近い距離に、私は咄嗟に両腕をつくと急いで体を起こした。



「いっ…」



肩に力を入れた為、再び襲った鈍い痛み。

その痛みに苛々を募らせながら後ろを向くと『大丈夫?』心配そうに見つめる雅貴先輩の横で、璃琥はあからさまに溜息をつく。

“バカ”とでも言いたいのだろうか。

呆れたその表情には、心配の“し”の字も伺えない。



『バイト行くから…』



そう告げた璃琥は私の返事も聞かぬまま、背を向けるとリビングを出て行ってしまった。



『あれでも、あいつ責任感じてるから』



私に気を遣ってくれたのだろう…。

雅貴先輩はそう言うと『じゃあ、また明日ね』爽やかな笑顔を残し、璃琥の後を追う様に出て行った。



―ガチャン...

ドアが閉められ、2人の姿が完全に見えなくなると静寂に包まれたリビング。

いつもの事なのに。

慣れてるはずなのに。

何故か、今日は空虚感に襲われた。


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