tearless【連載中】
『なぁ、あおい…』

「なに?」



振り向く事も出来ぬまま足だけを止めると、“バタンッ”とドアを閉める音が聞こえ、規則的に近付く足音と連動する様に心音も強くなっていくのを感じた。



祐樹を見れば、私はまた流されてしまう。

触れて、甘い言葉を囁かれれば、嫌と言えなくなる事をこの男は知っているから。



“ジャリッ”すぐ後ろで止まった足音に目を瞑ると、ヒンヤリとした感触が手首を包む。



『疲れた?』



“それとも嫌いになった、とか?”軽く放たれた言葉には悲しみなど微塵も感じられないから、尚更辛くなる。惨めになる。

祐樹にとって私は性処理の道具にしか過ぎないのだから、離れれば新しい人をすぐにでも見つけるだろう。



この容姿なら、尚の事…。



「手、離して…」



スゥーッと解かれた右腕はブランブランと前後し、やがてヒンヤリとしていた部分に熱をもたらしていく。

祐樹はいつもこうやって、いとも簡単に私から離れていっちゃうんだ。



『まぁ、いいや。』



“送ってやるから乗れよ”再び掴まれた腕を引かれれば、体は反転し視界に映し出される横顔と耳に光るピアス。

いつも一方的に事を進め、私の事なんかちゃんとみてくれた事無いであろう祐樹。



「1人で帰るからいい」



送ってやる、なんて嘘。

祐樹にそんな優しさなどない事は、よく知っているから。



『じゃ、車でする?』



案の定、足を止め振り向いた祐樹が耳元でこんな事を言うから。

“なんで…”色んな感情が入り交じり、我慢していたモノが一気に溢れだしてしまった。



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