tearless【連載中】
――…
―――……



もう、ここに来て何日経ったのだろう?



帰ろうとする私に“恋愛ごっこ、付き合ってやろうか?”そう言って、愉しげに笑う祐樹に返す言葉も見つからず、睨み付けた私。



『嫌なの…?』



“せっかく付き合ってあげるって言ってんのに…”吐き捨てる様に言葉を口にしながら再びベッドに押し倒す祐樹に、“好きにすれば?”抵抗する気にもなれず、全てを遮るように目を閉じた。



覆い被さる体。

拘束される手首。

反応を楽しむ様に動く舌。



いつもと同じ事をしているのに、全てが哀しく心を締め付けていく。

こんな形で体を重ねるのは嫌なのに反応してしまう体は、祐樹の言う通り“好き”と言っている様で。

悔しくて、涙ばかりが溢れては流れていく。

そしてその涙を見れば、祐樹は態度をコロッと変え突き放すんだ。



“泣く女は嫌い”



ヒシヒシと伝わるその想いは、やがて泣き止まない私に痛みを与えていく。



〔そんな顔すんなって言ってんだろ〕

〔泣いても、何も変わらないよ?〕



どこか遠くを見る瞳は、いつも憎しみと悲しみが入り交じり揺れていたから。

殴られた顔よりも、心の方が痛かった。



もう、見たくない。

祐樹がなんでこんなにも涙を嫌うのかは分からないが、私が泣かなければ殴られる事も、表情を歪ませる事もないんだ。



どうせ、こんな顔じゃ帰れない。

だから、泣く事を止めた。

…止めるしかなかった。

感情を殺し、祐樹の怒りに触れない様に過ごす。

これで全て丸く収まる。

そう思ったら、嘘の様に消えていった涙。



だって泣かなければ、祐樹はいつもの祐樹でいてくれたから。

私の好きだった祐樹がそこに居てくれたから。



だから、泣けなくて辛いとは思わなかった。

寧ろ、涙なんか無くなればいいとさえ思う自分がいたんだ。






< 210 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop