tearless【連載中】
「ちっ…」



舌打ちをした金髪男が私の方に向き直ると、鋭い瞳のままこっちに歩み寄ってきた。



「あ、あの…」



何か言わなきゃと思うのに、言葉に詰まりなかなか出てこない。



距離が数十cmにまで縮まると、上から見下ろしていた金髪男がゆっくりと腰を屈め、顔を私と同じ高さに下げてきた。



“うゎ…。綺麗な顔…”



近くに来てより一層明確になったその顔に、不覚にも私は見とれてしまったのだ。

切れ長の目に長い睫、スーッと通った鼻筋。

でも、その瞳はとても冷ややかでどこかアイツに似ていた。



『…泣きそうな顔してんな、お前』

「…は?」

『そんな顔するぐらいなら、夜こんなとこ歩くんじゃねーよ』



“そんぐらいバカでも分かんだろ?”こめかみを人差し指でトントンと叩くと、スッと腰を戻した金髪男は私の横を通り過ぎていった。



「は?…な、何で見ず知らずのヤツにそんな事言われなきゃなんないの?」



小さくなる背中を見つめながら“なんなのよ…”そう呟いた。



…でも助かったのは事実だし、顔からは想像つかない性格の男だったけど一応感謝すべきだよね?



もう会うことも無いと思うし。



ハァ…。1つ溜息をつくと、時折吹く生温い風に夏を感じながら来た道を戻った。


 
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