誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
人気商品のテレビ放映時間帯は、オペレーター以外の社員も、リーダーも、一斉に受注応援に駆り出される。
「お電話ありがとうございます。ご注文でございますか?」
泣き腫らした瞼を冷やし、想定外のダメージを引きずりながらも何とか出社した彩が、久々にオペレーター席で電話をとっていると、
「いえ、着信テストです」
聞き覚えのある声が、一瞬にして彩を硬直させる。
「あ…」
「若松さんですね。お疲れ様です。桐谷です。あっ、このまま切らないで、最後まで黙って聞いて下さい。
随分心配しました。あなたが早引けしてから…携帯は繋がらないし、メールの返信もないし…今日も欠勤なら家まで伺うつもりでした。
沖縄に行く前にどうしても聞いてほしいことがあります。この電話を切ったら、すぐに第三会議室へきて下さい」
「でも…」
「いいですね?これは業務命令ですから」
…業務命令、ね。
インカムを外し、わざとらしくため息をつく。
そっちが会社での立場を利用して命令すると言うのなら、従わざるを得ない。