誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~


人気商品のテレビ放映時間帯は、オペレーター以外の社員も、リーダーも、一斉に受注応援に駆り出される。



「お電話ありがとうございます。ご注文でございますか?」



泣き腫らした瞼を冷やし、想定外のダメージを引きずりながらも何とか出社した彩が、久々にオペレーター席で電話をとっていると、



「いえ、着信テストです」



聞き覚えのある声が、一瞬にして彩を硬直させる。



「あ…」



「若松さんですね。お疲れ様です。桐谷です。あっ、このまま切らないで、最後まで黙って聞いて下さい。

随分心配しました。あなたが早引けしてから…携帯は繋がらないし、メールの返信もないし…今日も欠勤なら家まで伺うつもりでした。

沖縄に行く前にどうしても聞いてほしいことがあります。この電話を切ったら、すぐに第三会議室へきて下さい」 



「でも…」



「いいですね?これは業務命令ですから」



…業務命令、ね。



インカムを外し、わざとらしくため息をつく。



そっちが会社での立場を利用して命令すると言うのなら、従わざるを得ない。





< 100 / 116 >

この作品をシェア

pagetop