誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
「失礼します」
沈鬱な面持ちで会議室のドアを開ける。
中で待っていたのは、慇懃無礼な電話の主とは打って変わり、恋人の機嫌を損ねてしまった不安を隠しきれない一人の青年。
「彩…」
敬は待ちきれない様子で彩の方へと自ら歩み寄り、愛おし気に肩に手をかけた。
「転勤のこと、会社からの報告が先になってしまって、彩を不安にさせてしまったこと…悪かった。
彩に会えなくて、連絡もとれなくて…この数日間、何も手につかなかった…」
敬…
優しい言葉に気持がグラリと揺らぐ。
それなのに…
「どうせ本気じゃなかったんでしょ?ちょうどタイミングよく手を切る口実ができてよかったじゃない」
「彩…?」
敬は信じられないというように、潤んだ瞳を揺らす。
「また沖縄で、若い女の子でもタラしたら?敬なら、選り取りみどりの入れ食い状態でしょ?」
サイテーなこと言ってると、自分でもわかってる。
だけど、敬の顔を見た途端、抑えていた負の感情が一気に噴き出し、敬の心に刃を突き立てなければ止まらない。