誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
えっ…
「センター長には、それなら取りあえず、次の転属先に決まってた沖縄のコールセンターへの予定を早めてみてはどうかと持ちかけられて…
俺もまだまだ青いな…。あいつに脅されて異動を早めるってことに、なかなか納得できなくてね。
どうすれば一番いいのか、どういう風に彩に伝えようか…いろいろ考えてるうちに、彩への報告が遅れてしまって…」
いや、後の言葉はもう耳に入らなかった。
二度と同じような辛い思いをさせたくなかったから…
彩はその言葉を、一番触れられたくない恥部をえぐられるような思で聞いた。
敬は知ってたんだ。
あたしが婚約者に逃げられて、前の職場にいられなくなったこと…
敬には知られたくなかった。
敬だけには同情されたくなかった。
敬、そんな目で見ないで。
これ以上あたしを惨めにしないで。
彩のなけなしのプライドが、敬の優しさを撥ねつけた。
「バカにしないでっ!」
彩はそう叫ぶと、驚きのあまり緩んだ敬の腕を振り払い、第三会議室を飛び出した。