誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
理香の言葉がグサリと胸を刺す。
「え?そうじゃねぇんだろ?相手もそれに気づいたから、最後の最後、土壇場になって引き返したんだろうが。
そいつが振ってくれたおかげで、桐谷と巡り会えたんだろうが。
本気で惚れた男に抱かれる喜びっつーのを知ったんだろうがっ。
あたしにすりゃ、恨むどころか、そいつに感謝しなって、足向けて寝るなっつー話だよ」
理香が一言まくし立てる度に、弱い自分を守っていた意地や、プライドや、嘘が、ボロボロと剥がれ落ちていく。
「喧嘩っつーのはな、すべて捨てるつもりで、なりふり構わず、ぶつかってったもんの勝ちなんだよ」
理香…
喧嘩じゃないって…
「そんなこと、大学じゃ習わなかったか?」
「…んなこと…」
習わねぇって……
彩の目から熱いものがほとばしる。
学校の成績だけを気にして、のほほんと生きてきた彩が、タイマン張って日々しのぎを削ってきた理香にかなうわけがないのだ。
喧嘩上等――
北関東にある僻地のコールセンターで、五つも年下の元レディース総長に、あたしは人生を学んだ。