誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
「花粉症の具合はどうなの?」
出社すると、いつも元気な日村さんが声をかけてくれる。
「それが、今年は長引きそうで。目がかゆくてコンタクトも入れられなくて…」
「それでメガネ?かわいそうに~、無理しないでね」
「はい、ありがとうございます」
彩はペコリと頭を下げると、心の中でペロリと舌を出した。
花粉症の気配なんて微塵もない。
それでも、敬に見つからないためには、マスクと黒縁の大きなメガネ…花粉症を装うのが一番自然で手っ取り早いと。
さらに、シャギーな横髪で頬を隠し、視線は極力上げず、できるだけ目立たない服装と行動を常に心がける。
完璧な変装のせいで、敬は彩に気づく様子がまったくない。
これなら最後まで隠し通せるかもしれない…
しかし、数時間後――
それは儚い夢と散ることとなる。