誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
そうサラリと言うと、斉藤さんは手元にあるFAX用紙を読み上げ出した。
「まずは…4月3日、ね。
お客様は黄色の財布を注文したのに、茶色が届いたとおっしゃって、昨日クレームの電話があったんだけど…
若松さん、覚えてらっしゃる?」
「えっ?…いやぁ…」
彩は思わず首を傾げた。
毎日60件以上の電話を受けるから、正直インパクトのない受注は記憶に残っていない。
「あの…サイズや色は何回か復唱して確認してますから、間違えることは、ない…とは思うのですが…」
それでも人間のすることに、絶対ということはない。
ついうっかり手を滑らせて茶色の選択ボタンをクリックした…ということもあり得ないではないが…
「そう。じゃ、お客様の勘違いっていうこともあるでしょうから…
今後も、その調子でお願いしますね」
「は?…あ、はい…。今後も…気をつけます」
あまりにも斉藤さんがあっさり引いたので、彩は思わず前につんのめりそうになった。
これが隣に従えているイケメン社員を意識してのことなら、敬の存在は彩にとって救いの神といったところなのだが…