誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
「あたしらの若い頃はバブルでねぇ。アッシー君だの、メッシー君だの、そりゃもう毎日がパラダイスだったよ。
…ったく、今の子は不況でかわいそうだよ」
確かに就職氷河期には違いないが、彩がこんなへんぴな場所でパート社員になったのには、それなりのわけがある。
ただ、少々込み入った事情だから、いくら大好きで人がよくても、おしゃべり好きな日村さんには言えない。
心苦しいが、適当に相槌を打ってスルーするしかない。
「おはようございます」
8時45分きっかりに、直属の上司、リーダーの挨拶で一日が始まる。
「4月1日の朝礼を始めます。昨日の入電数は…」
年度の始まりだからか、いつもより念のいった朝礼だ。
リーダーからの連絡事項が終わると、会議室から物々しい気配を振り撒きながら、スーツ姿の重鎮達がゾロゾロ出てきた。
何か特別な発表でも?
彩は嫌な予感がした。