誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
ガチャリ。
ドアの開く気配で素に戻った彩は、ついエスカレートしてしまった妄想に、思わず赤面してうつ向いた。
「失礼します」
「どうぞ」
何気に振り向いた彩は、自らを暴走させた張本人――桐谷敬の登場に、ヒクリと息を呑んだきり、次の言葉が出ない。
敬は前髪を長い指でかき上げ、ふんわりと甘く微笑む。
うっ。
腰から崩れ落ちそうになるその流し目を、奥歯を噛みしめる思いで一蹴する。
「すいません。すぐ終わらせますから」
「いえ、ごゆっくり。コーヒーを入れにきただけですから」
敬はシンクの傍らにあるエスプレッソマシンに紙コップをセットすると、その辺りにあるスチールのイスに腰を下ろした。