誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
通勤電車にて
―今朝、始発駅で起きました人身事故のため、ダイヤが大幅に乱れております。お急ぎのところ誠に申し訳ございませんが、もうしばらくお待ち下さい…
はぁ。
いつもの時間、いつもの乗り換え駅で、いつものように急行電車を待っていた彩は、このホームで思わぬ足止めを食う羽目になった。
取りあえず、携帯を取り出し、会社に連絡を入れる。
「あの、若松ですが、事故で電車が遅れてるようで…はい、すみません。はい、ありがとうございます…
あっ…
あ、いえ、何も…」
電車待ちの人でごった返すホームの上で、いつもと違う景色を見た。
脱いだジャケットを片方の肩にかつぎ、気だるそうに空を見上げているサラリーマン風の若い男…
なんてサマになるんだろ。
何でこんなにときめくんだろ。
あたしの目を釘付けにする男は…
桐谷敬―――
やっぱりあなたしかいない。