誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
これはもう、偶然なんかじゃない。
きっと……
彩が運命感じて立ちすくんでいる間にも、刻々と世界は動いていく。
―大変お待たせいたしました。只今、ホームに電車が到着いたします。お急ぎのところ申し訳ありませんが、二列に並んでお待ち下さい…
「若松さん、ぼーっとしてないで。ほら、乗りますよ」
「えっ……は、はい」
いつの間にか背後にいた敬に、肩をポンと叩かれ、彩は慌てて列に並んだ。
うわっ。
ようやく到着した電車の窓から見える車内はすでに超満員。
ドアが開いて降客はパラパラ。
覚悟を決めて、何とか車内に足を踏み入れるや、次々となだれ込む乗客に押され、奥へ奥へと流されていく。
「キャッ」
勢い余って、座席シートに倒れそうになった彩を、吊革のパイプに手をかけた敬が身をていして守ってくれる。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。何とか…」
ナイトに守られたお姫様気分に酔いしれているのも束の間、電車が揺れる度に二人の密着度が増していく。
ヤバい…