誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~


それでも二人の体勢に何ら変わりはない。



敬に触れられている腰の辺りがズキズキと熱を持って疼き出す。



緩めたネクタイから見え隠れする美しい首筋、尖った喉仏、広い肩幅、厚い胸板…



スーツ姿の敬の上半身から溢れ出る、壮絶なまでの大人の男の色気が、これでもかと彩を追いつめる。



感じちゃいけないと思えば思うほど、全身が心臓になったみたいに激しく脈打つ。



そして…



あのときと同じ敬の汗ばんだ肌の匂いが、五年前の封じ込めた記憶を呼び覚ます。



敬…



あたし、やっぱりあなたが…



いや、あなたでなきゃ…



愛しさが喉元まで込み上げる。



敬が……



甘い痺れに抗い切れず、敬にすがりついてしまいそうになったそのとき、



キィーッ!



急ブレーキに乗客全員がよろけ、彩のミュールの7センチヒールが、敬の革靴の先にグサリと突き刺さった。





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