誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
しゃべればしゃべるほど、ろれつが回らなくなってくる。
「あたしのこと~その気もないのに…からかうのは…もう、やめて、ほしいん…です…」
さっきまで笑顔だった敬の表情が固まる。
しばらく沈黙が続く。
「それ…本気で言ってるんですか?」
敬は一人、深いため息を落とす。
「…ったく、あなたって人は…天然もいい加減にして下さい。
いいですか?男ってのは、その気もない人をからかったりはしないもんです。
いや、他のヤツのことはともかく、少なくとも俺は…好きでもない人をからかったったって、一つも楽しくないですから。
いや、その、つまり…俺があなたをからかうのは……
あなたのことが…性懲りもなく、やっぱり今でも、好きだ…からで…」
思わず溢れ出た彩への想いに、頬が赤く染まる。
「いや…、俺、いったい何言ってんだろ」
しかし、信号待ちで隣を振り返った敬が目にしたのは、信じられないような光景だった。
ふざけんなって。
彩はすでに酔い潰れ、一人スヤスヤと深い眠りについていたのである。