誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
敬は助手席に中島を乗せ、首都高速を走らせていた。
フロントガラスに突き刺さる怜悧なまなざし、引き締まった精悍な顎のライン、ハンドルを操る骨張った長い指…
その横顔は、どんな女性をも平常心ではいられなくしてしまうほどに美しい。
さっきから敬の方をチラチラ気にしながら、母親らしき人物と携帯で連絡を取っていた中島は、
「うん…うん…、わかった。はい…ありがと、よろしく…はい…じゃ…」
電話を切るや、ねっとり甘えた声で敬にすり寄ってきた。
「桐谷さぁん、娘の怪我は大したことなかったようで、もう実家の母が病院から連れ帰ったそうです」
敬の眉間のシワがふっと緩み、一文字に結んだ唇から白い歯がこぼれた。
「そうですか。それはよかったですね。じゃ、行き先変更して、このままご実家まで送ります」
「ありがとうございます。でもぉ…実は…この機会に、桐谷さんにご相談にのって頂きたいことが…」
「えっ?…仕事のことですか?」
「え…ええ、まぁ…。あの…職場の…人間関係のこと、なんですけどぉ…
込み入った話なので…できれば、二人っきりに、なれるところで…」
チラリと流し見た中島の瞳の中に、獲物を前にした獰猛な爬虫類を思わせる光を見て取った敬は、憮然として言葉を遮った。
「わかりました」
キキーッ。
敬は高速の降り口で急ブレーキを踏むと、辺りに建ち並ぶラブホテル群の一角に車を突っ込んだ。