誘惑男子①~アブノーマルに抱きしめて~
ホテルにて
結局、ホテルのラウンジに、敬は帰ってこなかった。
彩は気丈にもホスト役を務め、全国のコールセンターの人達との交流に励んだ。
お酒やお料理のオーダーを通し、老眼気味のオバサン同志のアドレス交換を手伝い、カラオケのキーを調節し、タンバリンを調達し…
そんな努力の甲斐あってか、敬が抜けて沈滞ムードだった場の雰囲気も徐々に盛り上がり、最後は皆で拳を振り上げての大合唱でお開きに――
こういうのを同じ釜の飯というのだろうか、生まれも年も環境も違うのに、彩の中に不思議な連帯感が生まれつつあった。
別れ際、はるばる沖縄からやってきたという、彩のお母さんくらいの二人組に声をかけられた。
「彩ちゃ~ん、今日はお陰で楽しかったよ~」
「今度は沖縄においでよ~。あたしらが案内するからさ~」
「はい、ありがとうございます」
「彩ちゃんは、美人だしさ~、気はつくしさ~」
「きっといい男がめっかるさ~。ありがとう、また会おうね~」
「はい、きっと…」
おっとりしたイントネーションで優しい言葉をかけられ、彩は危うく涙が出そうになった。